007年3月16日(金)、渋谷O-nest 午後7時開場。青山の職場から大慌てで自転車で辿り着く。6階の演奏会場までのエレベーター前に長蛇の列ができている。その中に本番前のローラコースターの山崎美樹さんが一人で並んでいるを見つけて、簡単にご挨拶する。6階はレセプションホールのようになっており、そこには見知った顔があちこちに。間もなくチケットに書かれている整理番号順にステージのあるフロアまでの階段を下りる。想像していたよりずっと狭い。「これなら後ろにいても見える」と思い、敢えて前方に進まずにいたら、あれよあれよという間に200人近くの人間が詰め込まれ、ぎゅうぎゅうになる。当日券も完売とのこと。結局、ステージは人の頭の並ぶ隙間から伺い見ることになる。

ップスターのアリーナコンサートと違い、開演までやたらと待たされることもなく、ほぼ定刻どおりに出演者がステージに。カルロス・ジョンソン(以下CJ)とローラーコースター。CJ同様、最近P-Vine からCDを出した彼らがサポートバンドを拝命した模様。CJの姿を目にしたとたん、聴衆は一気にヒートアップ。最新ライブCDでは最後に収録されている「I Wonder Why」からスタート。いかにも盛り上がるそのイントロで場内歓声の渦となる。CJも気合い十分の様子で、最新CDの収録曲を中心に、ほとんど自分一人で弾き続ける。どの曲もCDよりさらにソロが長い。今回はCJが見たくて、聞きたくて来ているのだから文句は無いのだが、通常の演奏で誰か他の人がこんなに1曲を長く演奏したら絶対に飽きるなぁ、とわたし。

<画像提供:Mr.Kiyoshi Kondo、渋谷O-nestでの東京公演から>

段の地元の演奏では必ずしもこんなに客が入るわけではないだろうし、みながみな彼の一挙手一投足に息を詰めていることもないだろうから、プレイヤーとしてのCJもこの夜はどんなに嬉しいかったことだろう。わたしは見逃したが、聴衆の熱い反応に涙を拭う場面もあったらしい。聴衆のフレンドリーなヤジにも機嫌よく受け答えする。「太った!」と言われると出っ張ったおなかをさすりながら「But I'm happy!」と言い、自らトレードマークの帽子を脱いで「髪がなくなっちゃった」と頭をなでながら「But I'm happy!」と言う。わたしが2年前にシカゴで会った時は、ジーンズ姿もスッキリと若々しく、引き締まった二の腕や胸板も、こちらがドギマギするくらいだったが、この夜ステージにいた彼はやがては彼にも訪れるであろう老境を想像させる(「可愛いおじいちゃん」の一面を伺わせる)、何とも微笑ましいタタズマイであった。

知のように、今のシカゴからはもうエイシズのようなサウンドは聞こえてこない。CJもシカゴのプレイヤーとはいえ、フュージョンというのか、ファンクというのか、わたしが日頃親しんでいる50−60年代のブルースとはかなり異なる演奏をする。しかも、狭い会場とはいえ、通常の市井のブルースクラブとは明らかに音量も異なるこの夜、そんな彼のサポートをつとめるローラーコースターも大変だなぁとわたしは思った。実際、2曲目くらいから既に、CJもローラーコースターも、どちらも今ひとつノリきれていないような印象を受けた。否、聴いているわたし自身も、正直にいうと、今ひとつノリきれなかったのだ。だから、ジミー・リードの「You Don't Have To Go」が始まって、ようやくCJとローラーコースターが歩み寄ったような気がして、わたしもホッとリラックスしたのだった。

ョーの終盤で、「モト」と呼ばれたギタリストがステージに招かれた。CJが古い大切な友人だと紹介している。後から人から聞くと、この方は牧野さんとおっしゃって、長くシカゴで活動されていたそうだ。時計を持っていなかったので、正確にはわからないが、アンコールを含めて2時間半くらいの演奏だったのではないか。観衆は終始CJに熱い声援を送り、CJも終始聴衆に熱く(ギターと歌)で語りかけ、そういう意味で、幸福なショータイムであった。

て、この公演終了後、わたしは数人と連れ立って、会場から目と鼻の先のブルースクラブ「テラプレイン」に移動。既に他にも何人か流れてついている。もちろん、一同CJがふらりと遊びにくることを期待しているのだ。3年前のブルースカーニバル出演で来日の折にも、この店に遊びに来たと知っているからだ。もっと大勢流れて来ているかと思ったが、案外、集まりも少ないし、そろそろ深夜0時というのにCJも現れない。一同アキラメ気分で「では、せっかくだから、ちょっと音だししてから解散しよう」ということになる。しかし、ジャムセッション開始から15分ほど経ったところで、ついにCJ登場。おお!!

の場に居合わせていた旧知のプレイヤーは(以下敬称略)、GOさかい(G)、近藤潔(G)、三上寿一(B)、中山幸也(D)、TAD三浦(G)。そこに、殆ど面識のない若いプレイヤーたちがCJと一緒にやってきた。彼らはみなシカゴでCJと知り合い、CJのフォロアーになっているらしい。中には大阪からやってきたという男の子もいる。彼らはそれぞれガールフレンドを連れているので、店内、一気に華やかになる。CJは若い彼らに囲まれて終始ニコニコしている。男の子たちに「my son」と呼びかけている。わたしは2年前にシカゴのブルースクラブ「Rosa's」で飛び入りさせてもらったこと、ブルースフェスティバルの会場でも会っていることなどを話す。「ファイアー」という名前を思い出してくれる。宣伝用カードにサインをしてくれる。「『ファイアー』ってのは、どういう綴りだったかな?」などとトボケながら。

<画像提供:Mr.Kiyoshi Kondo、渋谷テラプレインでの非公式ジャムセッションから>

GOさかい、近藤潔といったシカゴ参詣上級者たちのことは、CJはもちろんよく覚えている。また、18年前のヴァレリー・ウェリントンのバックで初来日したときに会ったというTAD三浦のこともどうやら思い出した様子。白髪のTAD三浦を見て、「おお、そうか、お互いに年を取った」というようなことを言いながら、自分自身はまたもや出っ張ったお腹をさすったり、帽子を脱いで頭をなでたりしている。TAD三浦がCJの最新CDにも納められている「I'll Play The Blues For You」「What's Goin' On」を演奏しだすと、それまで若者たちと歓談中だったCJ、さすがにじっと聞き耳を立て始める。これらはTAD三浦の持ち曲でもあり、ベースもドラムも何度もこれらを演奏している三上、中山の二人。彼らが「Every Day I Have The Blues」を演奏すると、CJ、すっくと立ち上がりマイクの前で歌いだす。ううむ、いいぞ。CJもいよいよジャムセッションに参加だ!

CJの前なので、みな、ついつい力が入る。若い男の子たちもギンギン(!?)にギターを弾いている。それをCJは楽しそうに見ている。さて、ジャムセッションもいよいよ大詰めの頃合いとなる。CJとTADの二人がギターを抱え始める。このときのベースは、途中から駆けつけた江口さん。わたしは彼とは面識がなかったが、CJは江口さんと演奏するのが久しぶりらしい。再会をとても喜んでいる。さて、演奏が始まると一同しみじみ聞き惚れる。途中で軽い酩酊状態の近藤潔さんが自分もギターで混ざろうとするのを、わたしたちがしっかり(!)制止する。この日の公式公演でも演奏された「Mercy Mercy Mercy」が素晴らしい。途中からCJが「Use Me」へメドレーする。また、突然「I Like To Live The Love」を始める。それにTADが軽やかに応じて、合いの手を入れたりしている。

TAD三浦はわたしの師匠であるから、その人のことを褒めるのも気が引ける話ではあるが、わたしは心底感動した。この無冠のブルースマンが他のプレイヤーから突出しているのは、その「ブルース力」にある。どんな曲がやってきても、「この人に知らない曲ってあるのかしら」と思うほど、的確に反応する。しかも、決して消極的な演奏はしない。相手に対して、必ず「仕掛ける」。そして、その相手にも必ず「仕掛ける間」を与える。いろいろなパターンのバッキングで曲にメリハリをつけて盛り上げる。共演者に技をかけ、また共演者の技も受けて、演奏を深く深く広げていく。聞いている者を飽きさせない、スリリングだけれども決して外さないキャッチボール、この夜、CJはTADとのこのキャッチボールを十分に楽しんでいるように見えた。小さなブルースクラブだからこそ実現する細やかなニュアンスも際立ち、二人の演奏は一同に強い印象を与えた。「やっぱり、すごい...」と一人が呟き、みなが頷いた。

て、わたしはというと、CJと一緒に「Chicago Bound」「Somebody Loan Me A Dime」などを演奏させてもらった。大変嬉しいことではあったが、これは先述のCJとTADの演奏にはおよびもつかない代物で、わたしはただ自分のできる「決まりきったこと」をやっただけで、こういうのは本当の「ジャム」ではないと感じている。心地よい余韻に浸りつつも、すっかり明るくなった朝の明治通を自転車をこぎながら、自分にもいつかCJとTAD のような演奏ができる日が来るのだろうか、いや、一生来ないんじゃないか、ではどうしたらいいんだろう、などと考えた。

<画像提供:Ms.Mitsuco、渋谷タワーレコードでのインストアライブで>

帰りをして眠り、起き上がって、アスピリンを2錠のんで、今度は渋谷タワーレコードへ。数時間前まで、調子に乗って飲み過ぎていたらしい。3月17日(土)、午後4時ちょうどに現地到着。5階の売場の棚をちょっと除けただけの狭いスペースに、既に大変な人だかりができている。出遅れたわたしは背伸びをしながらCJの弾き語りを見る。昨夜のジャムセッションのメンバーの顔も見える。CDの販売プロモーションだから、CJはソロでは難しい曲もおりまぜて演奏している。その点、ソロ演奏にも適した「Big Boss Man」と「High Heel Sneakers」のメドレーは、聴衆にも受けがよく、わたしも手拍子で楽しく聞いた。途中でハモニカの目野君を前に呼び出して一緒に演奏。目野君は前夜のジャムセッションにも居たのだが、そのとき、彼が2年前シカゴの「Rosa's」で知り合って、一緒にタクシーに乗って帰ってきた若者の一人であったことに気づいたばかり。生音で熱演する目野君を心の中で応援する。

0分程度の演奏の後はサイン会。タワーレコードでCJのCDを買った人が対象なのだが、何と100人以上が並んでいたようだ。わたしはサイン会が終わるのをその場で待って、CJに挨拶。わたしのメールアドレスを手渡す。尤も、2年前にも手渡したけれども、メールをもらったことない。今度はいつ会えるかわからないけれど、まあ、わたしもブルースを演奏し続けてさえいれば、またいつかは会えるだろう。さて、この日は大人しく帰宅したわたしだが、CJは帰国直前のこの夜も前夜同様「テラプレイン」でジャムセッションに興じたとのこと。京都、名古屋の公式戦の他に、深夜の非公式戦(ジャムセッション)も毎晩欠かさなかったということになるらしい。「お疲れでしょう?」と聞いたとき、あの愛らしい顔でニヤリと微笑んで、「はい(ここだけ日本語)、but I'm a bluesman!」と応えたCJ、またお会いする日まで、どうぞお元気で!

<CJの宣伝用カード。「ファイアーへ、演奏を続けて。ラブ。カルロス・ジョンソン。またローザズで!」と書いてくれた。>


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