
第22回シカゴブルースフェスティバルは、2005年6月9日(木)から12日(日)の4日間、シカゴ市のグラントパークで開催されました。世界最大の無料ブルースフェスティバルであるこのイベントは、シカゴ市長室特別行事課(Mayer's Office of Special Events)と民間企業のスポンサーシップによる運営。ここ数年の最大のスポンサーは大手家電量販店ベストバイで、会場のあちこちで<BEST BUY>のロゴが見えます。もちろん、シカゴ市長リチャード・M・デイリー(Richard M. Daley)の名前もイヤというほど目につきました。開催期間中はずっと好天に恵まれ、先述の市の運営当局の発表によれば、来場者はのべで約70万人。そして、この来場者たちが会場内に出店されている屋台で飲み物、食べ物、お土産などに消費した金額は総じて約百万ドル(約1億円)とのことです。
わたしは今回「シカゴブルースフェスティバル鑑賞ツアー」に参加して、初めてこのイベントを経験することになりました。わたしが月に1度出演している東京阿佐ヶ谷のブルースクラブ「シカゴ」の店長根本氏が団長です。毎年この時期に誘われては断っていたのですが、今年は何故か「行こう!」という気になったのでした。ツアー参加者は団長他9名。ギターを持参したのはわたしだけでした。フェスティバル会場や夜のブルースクラブへは、水先案内の根本氏に先導されてあちこち移動しましたが、演奏のチャンスを狙っていたわたしは、いったん目的地に着いた後は自ずと単独行動となりました。
さて、会場のグラントパークには、野外音楽堂「ペトリロ・ミュージック・シェル」をメインステージとし、この他に「ジューク・ジョイント」、「フロント・ポーチ」「ギブソン・クロスロード」「ベストバイ・ショーケース」「ルート66・ロードハウス」の5つの特設ステージが組まれていました。下の会場内の略地図を参照してください。ちなみに、それぞれのステージにはスポンサーの広告があり、例えば、「ジューク・ジョイント」はルイジアナ観光局、「フロント・ポーチ」はUSセルラー、「ルート66・ロードハウス」はミシシッピー観光局の名前がアナウンスされていました。
飲み物、食べ物は、まずチケット売り場で食券を買い、それを使ってそれぞれの屋台で好きなものと引き換えます。例えば、ビールは食券7枚、ピザは6枚、というように。わたしも11枚つづりを2セット買って用意していたのですが、慌ただしくステージを回っているうちに、結局、気が付いてみると6枚も残してしまいました。30度を超える気温と、予想外の湿気、そして激しい陽射しで、水ばかり買っていたように思います。
話には聞いていましたが、フェスティバル来場者は、本当に、そのほとんどがお腹を突き出した中高年の白人男女。日本であれば、町内会の催しで温泉旅行に出掛けて行くような年代ばかりが目に尽きました。真夏のような気候のせいもあり、人々はきわめてカジュアルないでたち。おりたたみ椅子やシートを携帯して肌を露出している様子は、ハイキングかキャンプにでも来ているよう。誰もが、自分なりに、あまりお金をかけずに、大いに楽しもうとしてる様子がうかがわれ、わたしなどは、これが世に言う「アメリカン・ウェイ」なるものなのだろうと一人合点しました。
フェスティバルの出演者は以下のとおりです。どこのステージもきちんと時間が守られ、きわめてスムーズなプログラムの進行具合でした。ちなみに、わたしが見た出演者は茶色文字にしてあります。
では、わたしが実際に見たショーをステージごとに区切って、かいつまんでご報告します。会期中、会場で無料配付された<Chicago Jazz Magazine>のフェスティバル特集記事をアンチョコにしています。9日(木)
Juke Joint Stage
Noon-12:30 p.m. Erwin Helfer
1:00- 2:00 p.m. Roosevelt Purifoy
2:30-3:30 p.m. Fernando Jones
4:00-4:30 p.m. Roland Tchakounte
5:00-6:00 p.m. Chicago Blues Poetry Showcase featuring Marvin Tate, Tara Betts, AvantRetro, with a poem by Kim Berez hosted by C.J. LaityU. S Cellular Front Porch Stage
1:00-2:30 p.m. Blues in the Schools- That's All Right, Mama Arthur Big Boy Crudup. Stone Academy, Grant Academy, Reavis and Agassiz Elementary Schools ftg. Erwin Helfer and Katherine Davis, Eric Noden, Les Getrex, Billy Branch, Doktu Rhute with the Blues Heaven Harmonica Kids and Roland Tchakounte
3:00-4:00 p.m. Nick Moss and the Flip Tops
4:30-6:00 p.m. From Linda's Lounge: L-Roy and the Bullet Proof Band w/ special guests Lady D, Lady Cat and Holly MaxwellGibson's Crossroads
1:30-2:30 p.m. Tommy McCracken and the Force of Habit Band
2:45-4:00 p.m. Grana Louise
4:30-6:00 p.m. Toronzo Cannon and the Cannonball ExpressBest Buy Showcase Stage
2:00-2:45 p.m. Planetary Blues
3:30-4:15 p.m. After Midnight Blues
4:45-5:30 p.m. Madman Blues Band
6:15-7:15 p.m. Steepwater BandRoute 66 Roadhouse
12:00-1:30 p.m. A British Perspective: featuring Mike Rowe, Bill Greensmith, Bob Hall hosted by Jim O'Neal
2:00-3:30 p.m. Blues in the Schools Session
Petrillo Music Shell - 40th Anniversary of the British Blues Invasion
6:00-6:50 p.m. David "Honey Boy" Edwards: 90th Birthday Celebration
7:00-8:10 p.m. Kim Simmonds Savoy Brown's 40th year Celebration with special guest Bob Hall
8:20-9:30 p.m. John Mayall and the Blues Breakers w/ special guest Mick Taylor10日(金)
Juke Joint
12:00-12:30 p.m. Piano Willie
1:00-1:30 p.m. Eddie Taylor Jr.
2:00-3:00 p.m. Detroit Jr.
3:30-4:00 p.m. Hubert Sumlin and Steady Rollin Bob Margolin
4:30-5:30 p.m. Roy MeriwetherU.S. Cellular Front Porch
1:00-2:00 p.m. Sunnyland Slim Memorial Piano Set featuring Barrelhouse Chuck and Henry Gray
2:30-4:30 p.m. Eddie Taylor Remembrance w/, Little Arthur, Johnnie Mae Dunson, Eddie Taylor, Jr., Larry Taylor, Brenda Taylor, Edna Taylor, Demetria Taylor and the New Legends of Blues All Stars
5:00-6:00 p.m. Kim Simmonds and Bob HallGibson Guitar's Crossroads
1:30-3:00 p.m. Robert Jr. Lockwood Band
3:30-5:00 p.m. Eddie Kirkland with Eddie BurnsBest Buy Showcase
2:00-2:45 p.m. Pat Smillie Band
3:15-4:00 p.m. Scott Bradbury
4:30-5:15 p.m. Latvian Blues Band w/ special guests
5:45-6:30 p.m. Liz Mandville Greeson
7:00-8:00 p.m. The PerpetratorsRoute 66
12:00-1:30 p.m. Wolf's Family Birthday Party
2:30- 4:00 p.m. Centennial Celebrations: Henry Gray, Bob Hall, Roy Meriwether, Pete Crawford, and Jim O'NealPetrillo Music Shell
6:00-7:10 p.m. Jody Williams with the Willie Henderson Horns
7:20-8:30 p.m. Hubert Sumlin, Steady Rollin Bob Margolin, Pinetop Perkins, Willie Big Eyes Smith, and Mookie Brill
8:40-9:30 p.m. Koko Taylor and her Blues Machine11日(土)
Juke Joint
12:00-1:00 p.m. Don Washington
1:30-2:30 p.m. Waymon Meeks
3:00-4:00 p.m. Jon McDonald with Eddie C. Campbell
4:30-5:30 p.m. Bob SeeleyU.S. Cellular Front Porch
1:00-2:30 p.m. Aron Burton's salute to Jimmy Walker featuring Homesick James, Steve Freund, Tino Cortez, Jake Crosby, Glenn Davis and Aaron Moore
3:00-4:30 p.m. Carey Bell w/ Lurrie Bell's Blues Band
5:00-7:00 p.m. Chicago Blues Harmonica Project, 2005: Dusty Brown, Larry Cox, Russ Green, Little Addison, and Omar Coleman featuring the Chicago BluesmastersGibson Guitar's Crossroads
1:30-3:00 p.m. Linsey Alexander w/Joanne Graham
3:30-5:00 p.m. LatimoreBest Buy Showcase
1:00-1:45 p.m. 'Diamond' Jim Greene
2:30-3:15 p.m. Michael Powers
3:45-4:45 p.m. Howard and the Whiteboys
5:15-6:15 p.m. Noah Wotherspoon Band
7:00-8:00 p.m. Vera LeeRoute 66
11:00-1:30 p.m. Soul Cooking with Marie Dixon, Koko Taylor and Katherine Davis
2:30-3:30 p.m. Cultural Tourism: the Authenticity of the BluesPetrillo Music Shell
5:00-6:15 p.m. Erwin Helfer and His Boogie Woogie Ensemble
6:25-7:50 p.m. Billy Branch and the Sons of the Blues with special guests Pete Crawford, Lurrie Bell, Steve Freund
8:00-9:30 p.m. Buddy Guy12日(日)
Juke Joint
12:00-1:00 p.m. Frank "Little Sonny" Scott Jr. and Dancin Perkins
1:30-2:30 p.m. Eddie C. Campbell
3:00-3:30 p.m. Lucky Peterson
4:00-5:00 p.m. Carlos JohnsonU.S. Cellular Front Porch
1:00-2:00 p.m. Victory Travelers
2:30-3:30 p.m. Geraldine and Donald Gay
4:00-5:30 p.m. Calvin Cooke
6:00-7:00 p.m. George StancellGibson Guitar's Crossroads
1:30-3:00 p.m. Sharrie Williams and the Wise Guys
3:30-5:00 p.m. Fernest Arceneaux and the ThundersRoute 66
12:00-1:30 p.m. Songwriters: George Jackson, Bruce Bromberg, Bob Jones hosted by Larry Hoffman
2:30-3:30 p.m. an hour with Al BellBest Buy Showcase
1:00-1:45 p.m. Steve Arvey & Kraig Kenning
2:30-3:15 p.m. Big G and the Real Deal
3:45-4:30 p.m. Kenny 釘lues Boss Wayne
5:00-5:45 p.m. Matt Besey
6:15-7:15 p.m. Molly Nova & the HawkPetrillo Music Shell
5:00-6:30 p.m. Howard Scott and his Southside Review ftg. Miss Jessi and Stan Mosely
6:40-8:10 p.m. Lucky Peterson Band
8:20-9:30 p.m. Mavis Staples
「ジューク・ジョイント(Juke Joint)」みなさん、シカゴブルースフェスティバルの報告はこれでおしまいです。長い文章を読んでくださり、ありがとう。でも、シカゴでのブルースはこれでは終わりませんでした。夜のブルースクラブがあります。一服休憩したら、どうぞ、次のページにお進みください。
このステージは昔の南部の掘建て小屋同然の安酒場、ジュークジョイントを模したチープな造りにしてあるようです。ステージもこじんまりしており、小編成での演奏が多かったようです。わたしの知っている東京のブルースクラブでいえば、阿佐ヶ谷チェッカーボードという感じ。ここではエディ・テイラー・ジュニア(10日)とカルロス・ジョンソン(12日)を見ました。
「ふうむ、この人がエディ・テイラーの息子か...」と思い聞いていると、さすがにジミー・リードの曲のが多く、また「バッド・ボーイ」の演奏ではお客さんの反応も得に大きかったように思います。「きっと親父さんの奏法をそのまま見せてくれているんだろうな」と思い、手元ばかり注視しました。
さて、カルロス・ジョンソンは、この前々日の夜、ブルースクラブ「ローザズ・ラウンジ」で見た時とは異なり、ハモニカとのデュオで「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」や「スイート・ホーム・シカゴ」などの弾き語りでした。わたしはおしなべてフュージョンっぽい音作りがあまり好きではないので、この日のデュオ演奏にいたく感激しました。彼のこんなプレイを聞けて大満足でした。ただ、相方の白人ハモニカが誰だったかはわからずじまいです。
最後から2曲目に、「素敵な女性を紹介するよ。あれっ、姿が見えなくなってしまったけれど、みなさん、騒いでみてください、出て来ると思うから」などと言って、デイトラ・ファールを呼びました(この人もわたしは知りませんでしたが、後からインターネットで調べてわかりました)。女性ボーカルが出てくると、少々ダレ気味のステージがキュッと引き締まります。彼女が出て来たお陰で、カルロス・ジョンソンのラスト曲はいっそう盛り上がりました。聴衆がアンコールを要求したので、彼は時間を少しオーバーして(スタッフを了解させて)それに応えました。
蛇足ながら、演奏を終えたカルロス・ジョンソンに、前々日に「飛び入り演奏」させてくれたことのお礼と「さようなら」の挨拶をするために特設ステージの脇で待っているとき、このデイトラ・ファールが知人に「待たされたあげく、1曲だけよ」とこぼすのを耳にしました。そして、かつて某日本の女性ボーカリストが「わたしたちって、結局、利用されるのよ」と言っていたのを思い出しました。どんなによい演奏でも、30分以上続けると観客の集中力は薄らぐもの。そんなとき、ゲストに女性ボーカルをはさむのは常套手段ですが、彼女たちにしてみれば、ある種のフラストレーションがつきものなのかもしれません。
「フロント・ポーチ(Front Porch)」
玄関の上がり口に張り出したポーチを真似て組まれたステージ。ステージは東を向いて設置されているので、わたしたち聴衆は暑い午後中、自ずとづっと西を向いて、ジリジリ太陽に焼かれることになりました。一面の芝生が広がるここでは、寝転んでいる人も多数いました。
ここで見たのは、エディ・テイラー追悼セッション(10日)、ルーリー・ベルとキャリー・ベル親子(11日)。エディ・テイラー追悼セッションには彼の8人の子供のうち、エディ・ジュニアを含む6人が出演したらしいのですが、誰が誰なのかわからぬうちに進行しました。
ルーリー・ベルとキャリー・ベル親子は、とりわけキャリー・ベルが登場すると拍手喝采となりました。ただ、わたしはレゲエみたいな格好をしたベースがどうにも気に入らず、不満でした。また、父親が「フーチー・クーチー・マン」を歌うことを予測していなかったのか、息子の方が先にこの曲を歌ってしまっていたのはご愛嬌?また、ショーの最後に、やはりここも老女性ボーカルが車椅子で登場。かなりの大御所らしいのですが、残念ながら、彼女の紹介部分を聞き取ることができませんでした。
「ベストバイ・ショーケース(Best Buy Showcase)」
まったく知らないバンドばかりが出ていました。「ショーケース」と言うくらいですから、新人か売り出し始めのプレイヤーたちだったのかもしれません。音量も比較的大きく、ドタドタしたリズムが多かったので、わたしはすぐに飽きてしまいました。
ところで、このステージの近くに、「ブルースミュージアム」というテントがあり、そこではAV機器を搬入してビデオを見せていたので、避暑も兼ねて入りましたが、思いのほか感動しました。BBキングとアイク&ティナ・ターナーの全盛期のライブ画像を堪能することができたからです。液晶画面の前に並べられた椅子は満席となり、さらにテント自体がいつのまにか人だかりとなり、みなビデオに向って拍手をしたり、「イエィ!」などと叫んで大盛り上がり。とりわけ、黒人の中年女性がBBキングに激しく反応するのを目の当たりにしました。
「ギブソン・ギタ−・クロスロード(Gibson Guitar Crossroads)」
ギブソンのロゴが目を捕らえるこのステージは、横幅が9メートルくらいのゆったりしたもの。背後に壁を造っていないので、ステージ後ろの豊かな緑が透けて見えて清々しい印象。ここでは、ロバート・ジュニア・ロックウッド(10日)を見ました。
持ち時間は1時間半ですが、ロックウッドが実際にステージに出て来たのは30分を過ぎてからでした。ホーン3、サイドギター1、キーボード1、ベース1、ドラム1の編成です。今年90歳という御大は、暑い中をネクタイを締め、ダークスーツを着ての登場。フェスティバル出演者全体の中で背広をきちんと来ていたのは彼だけだったと記憶しています。
さて、演奏はといえば、これは残念ながらどうにもなりませんでした。「ストーミーマンディ」などは、どう聞いても、ときどきジャムセッションなどで見かける「ロックウッドのコピーをしそこなっているアマチュア」としか聞こえない。元来、あまり迫力のない彼のボーカルも、いっそうフニャフニャしていました。しかし、ロックウッドが何者であるかを知っている聴衆は、みな大きな拍手で彼に声援を送り、ステージ前は大変な人出でした。この日、メイン会場でのトリ出演の予定だった菊田俊介さんの姿も見えました。
ところで、「ルート66・ロードハウス(Route66 Roadhouse)」ですが、立寄ろうと思いながら、結局いつも通り過ぎてしまったので、ステージの様子をスケッチしそこないました。ここでは、どちらかというと「カルチャーセンター」風のセッションやトークが主体だったようです。
「ペトリロ・ミュージック・シェル」(Petrillo Music Shell)」
この野外音楽堂でのメインステージは、だいたい他のステージが終了する5〜6時にスタートし、1時間強のショーが1日に3〜4行なわれました。座席は「早い者勝ち」ですが、無料のせいか、観客には「必死になって席を取る」という感じがありません。たとえ座席を取れなくても、座席を取り囲む広い芝生の上で楽しむこともできるからです。それでも、わたしはできるだけ早く入場整理口に行き、そのお陰で、連日ステージから非常に近いところに陣取ることができました。
4日間、このメインステージには日替わりテーマが設けられていました。また、トリはいわゆる「大物スター」になっており、「こんなビッグネームをタダでこんな近くで見られて凄い!」という満足はありましたが、必ずしもブルースファンを心底喜ばせることができたかどうかは少々疑問の残るところですが...。
初日のテーマは「英国ブルース登場40周年記念」。ローリングストーンズのチェスでのレコーディングで共演したという、ハニーボーイがまず登場。大変若く見え、90歳とは思えませんでした。2番手がサボイブラウンなるバンド。わたしは全然知りませんでしたが、一部の観衆(50代白人男性)が大変喜んでいましたから、60年代にはかなり人気があったのでしょう。けれども、わたしには陳腐にしか聞こえませんでした。そしてラストがジョン・メイオール。この日の出演者の中では知名度ナンバーワン。けれども、演奏はやはりわたしにはつまらなく、ゲストのミック・テイラ−の登場を待たずに、次の行動(市内のブルースクラブへ出発)に移りましたが、とくに残念にも思いませんでした。
2日目は「ハウリンウルフ、(生きていれば)95歳おめでとう」がテーマ。ハウリンウルフと拘わりの深い出演者でした。ジョディ・ウイリアムスという人を、わたしは初めて聞きましたが、ギターは上手いけれども1曲1曲が長くてうんざりしました。得に、「オール・ユア・ラブ」を模したインストナンバーで、マイナー調ラテンとメジャー調シャッフルの繰り返しがあまりにしつこくて閉口しました。次はヒューバート・サムリンでしたが、ギターがあまり弾けなくなっているようでした。全面的にサポートしたのは、73〜80年マディ・ウォータースのバンドに在籍していたというボブ・マーゴリン。饒舌なギターに感心しましたが、ゲストプレイヤーが多すぎて緊張が途切れました。トリはココ・テイラー。バックのブルースマシンはよくリハーサルされた、かっちりした演奏と演出で、それまでのダラダラしたステージを一掃してくれました。菊田俊介さんも大熱演でしたが、わたしは秘かに「菊田さんも苦労が多そうだなぁ」と感じました。ビッグボスのココ・テイラーはずいぶん痩せて見え、声もあまり出なくなっていましたが、それでもその存在感は圧倒的で、キラキラした真っ白い衣裳で登場したときは、何とも言えない感動がありました。「ワン・ダン・ドゥードゥル」では会場全体が大合唱。大スターでした。
3日目、テーマは「ジミー・ウォーカーを偲ぶ」。アーウィン・ヘルファーという戦前型ブギウギピアニストは、素晴らしいテクニックを披露しましたが、大観衆の前での演奏にはふさわしくなく、演奏開始30分くらいですっかり飽きられてしまいました。「今のうちにトイレに行って、ビールを買って来よう」という感じです。それでも戦前派スタイルの女性ボーカル、キャサリン・デイビスがゲスト登場してステージを救いました。料理にもじったユーモラスでエッチな歌(「わたしのボールにお砂糖を入れて、わたしのロールにはホットドックも必要よ...」)で、うんざりしていた聴衆のハートを再びステージに呼び戻しました。2番手はビリー・ブランチ。日本でも相当に人気のある彼ですが、わたしにはいまひとつピンときません。また、ジミー・ウォーカーにちなんだプレイヤーを登場させる必要があったのか、彼は途中で3人もギタリスト(ピート・カウフォード、ラリー・ベル、スティーブ・フロイト)をゲストで入れましたが、これがすっかりステージをダラけさせました。一方、バンドメンバーである円山さんのギターは音量の調整が上手くいかず、何度もアンプに屈み込む姿が痛々しい印象。結局、キーボードの有吉さんのプレイが観衆に最も支持され、歓迎されていました。
さて、トリはいよいよバディ・ガイ。登場と同時に大歓声、大興奮。アコギでデュオ演奏を2曲したあと、ワイアレスのエレキに持ち替え、客席を練り歩くショーは、予想どおりの展開。誰もが大きな声を出して拍手していましたが、その片隅で、わたしはどんどんシラケていました。始まった曲は決して終わらず、前の曲にかぶせて次の曲が演奏される。曲の途中で「お遊び」のようなソロがある。しかもそれがとても長い。こっちはストレートの速球を待っているのに、変化球ばかり投げて来る感じです。わたしの隣に座っていた韓国からの留学生は終止叫び続けて、「すごいね!」と連発するのですが、休憩時間のお喋りを通じて、「ブルースといえばエリック・クラプトンとバディ・ガイ」という青年だということがわかっていたので、わたしは完全に無視しました。わたしは「もういいや」という気持ちになり、この日も夜のブルースクラブへ出かけるために、席を途中で立ちました。観衆全員が立ち上がって狂喜する中、年輩の黒人男性が2人、憮然とした表情ですわったいるのを見かけて、なんとなく嬉しくなりました。
最終日。テーマは「メイジャー・メリウェザーを偲ぶ」。「メイジャー・メリウェザーというのはビッグ・メイシオのことだ」と後から知ったわたしです。さて、トップバッターはハワード・スコット。出演者の衣裳も計算され、若い女性ボーカル、男性ボーカルがボスを盛りたてる、見ていて気持ちの良い「歌謡ショー」。ただ、事情はわかりませんが、横山やすしのようなヒラヒラした身体つきのボス、肝心の歌があまりに貧弱でびっくりしたほどです。2番手はラッキー・ピーターソン。最初の数曲はキーボート、のちワイアレスのエレキ。前夜のバディ・ガイと芸風はまったく同じ、ロック・フュージョンのコンサートのよう。客席に突入してきたピーターソンは、なんと、わたしが座っていた椅子の上にあがりました。石炭のように黒く光る肌、大きく見開かれたギラギラした瞳、弦高の低いネック、そんなことを記憶しています。隣の白人男性も喜んでいましたが、「ラッキー・ピーターソン?知らないなぁ...」とのことでした。
とはいえ、誤解のないように加えるならば、中にはコアなブルースファンである白人も大勢いたと思います。例えば、2日目にわたしの隣にすわっていた中年男性は、ジョディ・ウィリアムス、ビリー・ブランチのステージの間、よく一緒に歌っていたからです。何度も話し掛けようかと思いましたが、大変なハンサムだったので気後れしていまい、結局、腕がぶつかったときに「ソーリー!」と言うにとどまりました。
そして、いよいよフェスティバル全体をもしめくくる大トリ。登場はメイビス・ステイプル。70年代をロック少女一筋で生きていたわたしには馴染みのない人でしたが、アメリカでは国民的大スターであることを知りました。息が切れて苦しそうでしたが、彼女の一挙手一投足に観衆が喜びます。私生活も含めて、国民に周知された大芸能人の貫禄です。「リスペクト・ユアセルフ」、「アイル・テイク・ユー・ゼア」は大合唱。そういえば、どこかで聞いたことがあるような気がしました。「ウェイト」ももちろん大ウケ。心地よい興奮に覆われながら、わたしは「女性ボーカリストがいかに聴衆に愛されるか」ということを考えていました。気狂いのようにギターを弾きまくるラッキー・ピーターソンに、観衆は大歓声を浴びせましたが、そこには何か無理がありました。けれども、メイビス・ステイプルは客席に語りかけ、微笑み、歌うだけで、すんなりと人々の心の中に入り込んでしまう。女性ボーカリストの魅力を再認識させられました。
注:会場地図およびスケジュールは公式プログラムからの転載です。また、本文中のスケッチ画像はわたしが描きましたが、不正確な部分も多いことをご了承ください。(2005年6月18日記)
追記:シカゴ滞在中に知り合った、写真家、轟美津子さんが撮影したフェスティバル出演者たちのポートレイトが「HOMESICK RECORD」のサイトに掲載されています。ここをクリック!本文と合わせて、是非、ご覧ください。(2005年9月10日記)